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 今にも吐き出してしまいそうな苛立ちに、部屋の窓を乱暴に開け放った。  最初に目に飛び込んできたのは美しい青をまとい、どこまでも高く伸びる入道雲。その下には容赦なく照りつける太陽の熱気を帯びたアスファルトが、遠くまで続く街の景色をぼんやりとゆがませていた。  夏特有の街の匂いと音が部屋を埋め尽くすのにさほど時間はかからなかった。  じわりと背中を伝って流れる汗が苛立ちをさらに鬱陶しく感じさせる。  幼い頃はその夏の音と匂いも気にはならなかったが、さすがに高校生にもなるとそれは多少変化もする。いや応なしに耳の奥の方まで入り込んで来るセミの声と残り少ない休日とが苛々と焦りをさらに募らせる。  夏休みに入る前は漠然と何か新しい事に挑戦しようと考えていたが、ただ無駄に茫漠とした時間を過ごしてしまったことが、この今の気持ちの最大の原因なのかも知れない。    去年もそうだった。  おそらくその前もそうだ。  何も変わらないいつもの夏休み。  頭では理解できていても行動に移せない優柔不断な自分の姿が、開け放った窓の隅にうっすらと写っていた。  新しく何かに挑戦する事もなく、恋人ができるわけでもない。  時間を浪費するだけの日々。  そんな無意味で空っぽな自分を変えたいと思っていた休みの初日も、気付けば十日を残すほどになってしまっていた。  昔見たアニメで夏休みが何度もタイムリープする話があったのをふと思い出した。今まさにそうならないかと切実に願ってしまう。  カーテンを閉めるのと同時に出た深いため息は、体を鉛にでも変えてしまったようだ。  まるで自分の体じゃないように重くなった体をそのままベッドに投げ出した。  目を貫くようにカーテンの隙間から差し込む光に背中を向けた。スマホで時間を確認すると15時を少し過ぎていた。  また繰り返す浪費するだけの時間に、得も言われぬ熱い動悸がした。  頭の奥の方から甲高い耳鳴りがする。気分が晴れないときはいつもこうだ。うるさい程の耳鳴りは考え事すら集中させてくれない。 「ダメだ……」  思わずつぶやいた。それは何がダメとか判然としないままに自然とこぼれ落ちた言葉で、取り留めもない思いが頭の中を駆け回っている。  叫び出したくなる衝動を抑え、まとわり付く何かを振り払うようにブンブンと頭を振る。  そして鉛のように重くなった体を無理やり起こし部屋を出た。
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