偽り芝居

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~偽り芝居~  『真夏』、真夏。  そんな声に目が覚める。  「あー…おはよう…」  俺は眠い目を擦って、お母さんに叩き起こされたことを解した。  「って、なんでいるの?」 「何でって、今日はあれでしょう?ちゃんと話しに行くって決めたのに。遅刻してはいけないでしょう。」  幼子を叱るように丁寧に言われ、俺は馴れない口調に顔をしかめる。  「わかった。」  俺はお母さんを部屋から追い出すと、おろしたての洋服に着替える。  「おかしくないか?おー、化粧はした方がいいのか…?」  まあいいや。  そんなこと、どうだって良い。  俺は結局、予定の十分前に家を出た。  マフラーを巻いていても寒い冬、あくびをしながら外の冷風に心的なダメージを負う。寒い…  それに、今からの話し合いにも気が滅入る。なんせ、大人げなく喧嘩した後の話し合いなのだ。  あの日は珍しく殴られて、雨でずぶ濡れで…  あの時は放心状態で家に帰って、お母さんに抱き締められて、そこでやっと目が覚めたっけ。
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