偽り芝居

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 ――それは、翌日のことだった。  「おめでとう!」  二階の部屋から降りると、そこに広がるのはケーキとプレゼント、輪っかの飾り達だった。  ――誕生日だ。  「え?」 「『いつか』、今日が誕生日じゃない。驚いた?」 「……へ?」  何を言ってるんだ。  俺の誕生日は、夏だ。名前だって、由来はそれだ。  それ以前に、俺は真夏だ。いつかじゃない。  それだけはずっとお母さんも間違えはしなかった。  「お、お母さん?私の誕生日は…」 「今じゃない!さ、プレゼント開けて!」 「ち、違う!私はいつかじゃない。真夏だ!」 「そんなわけ無いじゃない。さ、早くプレゼントを…」  ――どういうことだ?  俺は慌てて部屋を飛び出し、二階に忘れた携帯を手に取る。  携帯は俺のものだ、高校生になったから買って貰った。  画面を見て、色々漁る。アプリのアカウント、携帯のパスワード…全てが俺のものだ。  真夏だし、パスワードは俺の誕生日。  「よ、良かった…私、ちゃんと真夏だ…」  となると、おかしくなったのはお母さんか。  慌てて俺はいつかに連絡をいれる。いつかの方は、何も変わり無いようだった。しかも、ちゃんと今日の午後からあのカフェで待っていると教えてくれた。  「焦ったぁ…お母さん、大丈夫かな?」  ちゃんと話さないと。  俺は携帯をポケットに入れ、再び一階に戻った。  「真夏、ごめんね。お母さん間違えちゃった。」  戻った時、そこにはもうケーキもプレゼントも片付けるお母さんが居た。お母さんもおかしくなかった。何とか、お母さんも思い出してくれたみたいだ。  俺は反射的にほっとする。  「間違えたって…」 「いつもお祝いするからね。ごめんなさいね。さ、真夏。ホールのケーキ買っちゃったから、朝御飯はこれで良い?」  お母さんはケーキを持ち上げる。箱の中のイチゴケーキは大粒のイチゴとハッピーバースデーの描かれたお菓子がある。  「うん、大丈夫。」  ……俺は椅子に座りながら、そこでこれが好機だと知る。だってお母さんはいつかと俺を間違えた。つまり、交換を止める切り口になるはずだ。  何口かケーキを口に運び、それから俺は話し出そうと、口を開く。  「あ、ねえ真夏」 「?なんですか?」 「これからもずっと我が家に居てね!」 「…………えっと、その事なんですが…」  まさか先に居てと言われるとは、話しにくいぞ。  それでも俺は約束したから、と頑張って話す。交換は止めたいと。    「そうね、真夏もいつかもそう言うのなら、止めましょう。」  俺が正直に話すと、お母さんは以外にもすんなり受け入れてくれた。  「あ、ありがとうございます!」  ケーキの皿を運び、洗いながら俺は感謝を伝えた。  「あ、じゃあ私いつかに話に言ってきますね!今日の午後からのこと!」  立ち上がり、俺は二階で連絡を取ろうと、階段を上った。  これできっと、いつかとも元通りだ。きっとこれらの経験は俺の人生において感慨深い思い出になる。  俺はいつかの趣味全開の部屋を出ていくことを少し口惜しく思いながら、ポケットから青い携帯を取り出した。
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