偽り芝居

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 『結局、駄目でしたね』  私は電話越しにため息をつかれる。  「そうでしょうか?」 『いつかちゃんは貴女がお母さんが良いってはっきり言ってました。あたしいつかちゃん大好きなのにな。』 「子供なんてそんなものですよ。それに、まだ諦めなくて良いですよ」  ふふ、と私は少しだけためて、それから教えてやる。  「いつかが真夏を殴った後、少しすると真夏、自分のことを私って言い出したんです。不思議ですよね。段々いつかの家の真夏だってことに馴染んだんですよ。」 『あの真夏が、私って言ったんですか!?』 「はい。今日、会うでしょう?色々することがあるから、交換を止めるのはあと一週間待って、と言えば良いんです。その内に真夏は懐柔できますよ」 『そうですか…』  すると真夏の本当の母親は少し困ったような声で、消えそうな声で呟く。  やっぱり、娘をこうはっきり手放すのは嫌だったかな。  『じゃあ、教えてくれませんか。いつかちゃんを懐柔する方法。手が空いたらで良いですよ!』  ふふ、やっぱり、私が見込んだだけあった。  「勿論です。まずは呼び捨てにしてください。それから…」  私は上機嫌にいつかのことを語った。  いつかだってきっと、あっちに馴染んでいくはずだ。  私はいつかが大好きだ。だからこそ、親友の真夏と相性が合うと気付いたときは嬉しかった。  ――これが、縁は切らずに、幸せになる方法。  真夏や真夏の母親は流されやすいから、『合ってない』と気付かせるのは簡単だった。  いつか、私が目指すのはあれだ。真夏といつかが遊びに行く時、保護者としてついていくこと。二人を見守ること。  これが私にとって、相性最高の…  「おかあ、さん?」  そこには、目を見開いて私を見るいつかが居た。途中から聞かれていたか。私はなんでもないように電話を切った。  改めていつかを見る。  いや、いつかに見えたのは、真夏だ。  ――また、間違えた。  まあ、こういうのもいずれ減るだろう。  いつか、馴染む。真夏になるころには、私は本当の親のようになれる。色んな問題は多いけど、大丈夫。  私は笑う。  そこで真夏は多いに混乱し、やがて一人称が変わっていることに気がついていた。  「そうだ、私…いつから私って…!」  そうそう、私、真夏にまだ言っていないことがあった。本当は一人称が変わった時に言いたかったんだけど…
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