フェニックスは灰の中より蘇る

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 選挙期間が折り返しを過ぎても、火鳥は何を復活させようか決めあぐねていた。しかし、それどころではない事態が起こってしまう。応援演説を終えたところで政策秘書が一枚のペラ紙を火鳥に渡した。地元選挙区の期日前投票の出口調査の途中結果である。 「何かねこれは。ダブルスコアで私が負けているではないか」 火鳥は負けていた。二倍以上の差を天野一矢につけられていたのである。 「わ、私も信じられないのですが…… おそらくは地元を回っての誠実な選挙活動が実を結んでいるかと。若年層を中心とした無党派層は皆天野派であると思われます。SNSでも普段は選挙に行かない層を中心にして『天野一矢を国会に』が合言葉になっているそうで」 「おい、どうせインターネットで選挙に行くなんて言ってる奴はどうせ行かないんだ。春は花見、夏は暑い、秋は紅葉狩り、冬は寒いとかって言い訳を並べて行かないに決まっている。慌てる必要はない」 「現状、我が陣営は地元企業の組合と党の支援だけで勝負することになりそうです。それに与党は色々と不祥事が重なってますから…… 言い難いのですが、無党派層からは先生が目の敵に」 「な、何故私が悪いというのだ」 与党が不祥事続きで評判が悪い上に、選挙の時にしか地元に帰ってこない先生の驕り高ぶりです。と、政策秘書は言いたかったのだが、口を貝のように閉じる。 「人気の物書きにはご退場願おう。どこの党から出ている? 私が電話一本すれば辞退させることなぞ簡単だ」 「無党派無所属、裸一貫の出馬です。野党も支援を申し出たのですが断ったそうです。当選後に新党を作りたいからと……」 「な、何も頼らん無頼派か…… この時代に無頼派の作家とは大時代(おおじだい)的な…… そんな男がどうして選挙に出るというのだ」 「我々がカネの問題で政治を停滞させていたからでしょう。国を憂いたのではないでしょうか?」 「何を言うとる! 停滞させているのはつまらんことをネチネチネチネチと追求する奴らだろうが! 政治家たるもの清濁併せ呑むもの! カネの問題なぞ昔ならばいくらでもだな……」 政策秘書は「もう、この人は長くないな」と見切りをつけた。しかし、政策秘書として仕事はしなければいけない。当選の為に提言を行った。 「国民の皆様が政治家に清廉潔白を求めるようになっただけでしょう…… 先生がそう思うなら、そう思ったままで結構です。老婆心ながら注進させて頂きます。地元に戻って一人一人有権者と握手をし、靴をすり減らす選挙活動に立ち返り、有権者に誠意と清廉さを見せないと勝てませんよ」 火鳥は慌てて地元へと戻った。天野一矢と駅前演説がブッキングすることになったのだが、集客の差は歴然。火鳥の選挙カーの前にはサクラの客寄せしかおらず、天野一矢の選挙カーの前には真剣に彼の話を聞きたいと考える人集(ひとだか)り、その差を全国のニュース中継で流されたものだからサァ大変。火鳥と言う男の人気の無さを全国に露呈する羽目になってしまった。 しかし、火鳥は労働組合や自治体へのローラー作戦による堅実かつ誠実な選挙運動のおかげで差を縮め、選挙予測を五分五分にまで何とか盛り返した。
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