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火鳥は大都市圏の候補の応援演説のために日本全国を飛び回った。午前中に北海道にいたかと思えば、午後には九州に行く東奔西走。大車輪の働きであった。
東奔西走の選挙期間の中、神社への参拝をしていないことを思い出した火鳥は僅かに出来た針の穴程の暇を縫って、目についた神社に参拝することにした。応援演説を終えて目についた神社は都会のビル群に挟まれた小さな社。看板には「一度神社」と筆文字で刻まれている。
火鳥は一度神社の鳥居を潜ろうとすると、自らが応援する候補者に声をかけられた。
「火鳥先生、本日はありがとうございます」
「我が党の議員は皆、同じ釜の飯を食う家族だ。志を同じとする同志を応援するのは当然だよ」
火鳥は内心では「お前のない知名度の尻ぬぐいをしているだけだ!」と機嫌を損ねていた。
「自分、知名度が無いもので…… 比例名簿にも名前を刻んで頂き…… 党の助けを頂き光栄の限りです。でも、先生の応援演説があれば心強いです! あれ? 神社に行かれるのですか?」
「安心しておくが良い。私の応援演説で万の票が動く。神社での神頼みは気休めだ。今回は地元の氏神様に参拝する時間もなくてな、せめてものと思ってのことだ」
「ああ、この神社はビルとビルの間に挟まってて見つけづらいんですよ。私も地元民なのに昨日始めて神社があることに気がついたぐらいです。その分、霊験あらたかなんですよ」
火鳥は一度神社の鳥居を潜り、一礼。社の前に立ち賽銭箱に五円玉を投げ入れ、二礼、二拍手。自らの当選を願う。すると、周りがいきなりモノトーンの世界へと様変わりする。困惑しながら周りを見回すと、社の前に束帯を纏った好々爺が鎮座していることに気がついた。一瞬前まで誰もいなかったのに何故に? 火鳥は首を傾げた。
「ほう、この神社に参拝客が来るとは珍しい。昨日から続けて二人目だ」
「なんだ? 平安貴族のような格好だな? 今日はひな祭りでもハロウィンの仮装パーテーでもないぞ?」
「うむ、お主もこの国の政をすなるものか?」
「質問に答えろ! お前は何者だ!」
「やれやれ、信心深くはないようじゃの。我はそなたらの言うところの八百万の神の一柱で『一度命命(ひとたびのいのちのみこと)』と名を言う」
「季節の変わり目にはこのような輩がよく出るな」
「人には神々のすることは『神事』と言うて信じられんもの。八百万の神々にはそれぞれ出来ることが決まっておってな、我は出来ることが神々の間から良くないことと思われておる。だから爪弾きにされておって、常に一柱よ。この神社も日本神社協会からは認められておらん、はぐれ神社の扱いじゃ」
「はいはい、何が出来ると言うのだ?」
「一度だけ、何でも復活させることが出来る」
「言うに事欠いて『復活』とは、からかっているのか?」
「久しぶりの参拝客じゃ、その礼をしてやろう。何か復活させて欲しいものがあるなら言うてみぃ。おっと、我が願いを叶えるのは一人につき一回のみじゃ、よぉく考えるんじゃぞ?」
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