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そして迎えた投開票日、火鳥は地元体育館の投票所にて自らに一票を投じた。その帰りの道中、同じく一票を投じに来た天野一矢とすれ違い、お互いの健闘を称えるように握手を交わす。
「お互い、頑張りましょう」
「日本の未来のために」
火鳥はその後間もなくに東京の与党本部へと戻り、開票を待つのであった。
20:00の開票時刻を迎えた。火鳥は与党本部のステージの上に設置された候補者達の書かれたパネルの前で当落を固唾を呑んで見守る。一喜一憂の見本市がそこにはあった。開票が進み当確が出る度に候補者の名前に赤い薔薇がつけられていく。ただ、今回は不祥事を起こした議員には民意による人罰が下されたのか、薔薇はつけられない。火鳥が応援していた候補者も芳しい結果を得られることなく落選の通知がされていく……
火鳥であるが、天野一矢と拮抗した僅差の戦いを繰り広げており、なかなか当確が出なかった。知名度抜群の「政の王子様」が無党派無所属の候補者と鎬を削るようなギリギリの票の奪い合いをするとは前代未聞の珍事、火鳥からすれば生き恥を晒すようなものである。
決着は天辺を回る頃だった。当確のマークが天野一矢についたのである。勝負を決めたのは数百票と紙一重の差であった。
それを控室のテレビで観ていた火鳥は椅子から崩れ落ち絶望した。政策秘書は肩を叩き一言。
「今まで、お世話になりました」
火鳥にその声は聞こえない。生まれて始めての落選に精神が混乱の坩堝に入っていたからである。一体何故に負けるのか!? 納得がいかない! 火鳥は手を合わせ膝を折り、神に嘆きの言葉を投げかけた。その刹那、一度命命のことを思い出す。
「よいか? 復活させて欲しいものがあったら、心の中で念じるがよいぞ。さすればただちに復活させてやろう」
願いは決まった。火鳥は膝を突いたまま天を仰ぎ、一度命命に願いをかけた。
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