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それがどんな内容かも知らないで、梅子が超然と言った。
漆原は受け入れるしかなかった。
この家では、梅子の意向がすべてに優先されるのだ。
「洋子さんもそれでよろしいですか?」
確認を求める。
洋子は怯えたように身を縮めながら、CEОのおっしゃるとおりに、とか細い声で囁いた。
「分かりました。では、ご説明申し上げます」
漆原は吹っ切れた顔で、巨体をそびやかした。
「我々が西園寺洋子さんを被疑者として出頭要請いたしましたのは、利勝氏殺害に端を発する一連の事件の主犯として、明確な嫌疑が存在すると考えるからです。まずは、なぜ利勝氏が殺害されるに至ったのか、その動機についてご説明させていただきます」
漆原は手にしたバッグの中から一枚の写真を取り出した。一本の歯ブラシが写っている。
遥香を見て問いかける。
「これは、以前あなたの部屋から紛失した歯ブラシではありませんか」
遥香は近づいて、まじまじと見た。
「はっきりとは分かりませんが、色や形状が同じような気がします」
漆原がうなずく。
「これが……桜庭が私の部屋から盗んだ歯ブラシなのですか?」
「いいえ。盗んだのは桜庭ではありません。この歯ブラシは、あなたのお父様があなたの部屋から密かに持ち出したものです」
「父が?」
遥香は目をぱちくりさせた。
「お父様なら、合鍵を作って自由に部屋に出入りすることが可能だったのではありませんか」
「でも、なぜ父が私の歯ブラシを盗む必要があるんです」
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