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「私は結婚後、何年も子宝に恵まれなかった。当時は男性不妊なんて言葉もなくて、すべて妻のせいにされた。私は夫や夫の親族に顔向けできなくて、申し訳ない気持ちで一杯だった。いつ離婚されるかビクビクしながら暮らしていた。自分をずっと責め続けていたんだ。
だからある時、夫の両親から、重吉がよそでこさえた子供を引き取って育てないか、と提案された時、二つ返事で引き受けた。断ることなどできなかった。むしろ私は、これで西園寺家から追い出されずに済むとありがたい気持ちになった。そうして私は、明美と孝雄……お前たちを引き取って、自分の子供として育てたのさ」
二人はあっけにとられた顔で聞いている。
孝雄の口は、ぽかんとあいたままだ。
「ところが皮肉なもんで、諦めて何年も経った頃、突然利勝がお腹に授かったのさ。びっくりしたなんてもんじゃない。私は不妊症なんかじゃなかったんだ」
梅子は勝ち誇ったように言った。
詩織は部屋の片隅で一連の会話を聞きながら、もの悲しい気持ちに駆られていた。
部外者の自分が聞いていい話とは思えなかった。
「でもね」
ふいに梅子は弱々しい表情になる。
「私は今まで一度だって、利勝とお前たち二人を区別して考えたことはない。本当の子供だと思って育ててきた。少なくともお前たちの中には重吉の血が流れている。私にはそれで充分だった。それを大事にしようと心に誓って生きてきた。いつだってお前たちを本当の子供だと思っていたし、分け隔てなく一生懸命育ててきたつもりだよ」
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