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漆原刑事の説明
漆原は邸内に足を踏み入れると、男性使用人の案内で螺旋階段をのぼり、二階の広間に入った。
梅子を筆頭に、西園寺家の面々が全員集結している。なぜか菊池詩織の姿も部屋の隅にあった。
梅子は泣きはらしたように充血した瞳で漆原を見つめてきた。
他の者たちも一様に緊張感をはらんだ顔つきで、室内には一種異様な雰囲気が漂っている。
「西園寺洋子さんに、奥多摩署への同行を要請に参りました」
漆原は丁寧な態度で言葉を発した。相手が西園寺一族であるという重圧が、彼を慎重にさせていた。
「それは任意で、ということですね」
梅子が確認してきた。
「はい、そうです。しかし、要請を受けていただけない場合、逮捕状を請求することになります」
「分かりました」
梅子はうなずいて言葉をつづける。
「事情聴取には応じます。ただし、奥多摩署への出頭は拒否します」
「は?」
漆原は首を曲げた。
「この場で洋子から話を聞いてください」
「しかし……」
「任意同行の場合、聴取の場所はこちらから指定できるはずです。そうよね、長谷川」
と壁際に控える背広姿の男性に問いかける。
「はい」
胸に弁護士バッジをつけた長谷川がうなずいた。
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