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「分かりました。では、こちらで話を伺わせていただきます。他の皆さんは退室していただいてよろしいでしょうか」
「お断りします」
梅子は毅然とした態度で言った。
「我々もここで話を聞かせていただきます。洋子にどのような嫌疑がかけられているのか、西園寺家の人間として知る権利があります。西園寺コーポレーションの未来にかかわる重大案件ですので」
「しかし……」
漆原は顔を曇らせた。
「お気持ちは分かりますが、今回の事件は高度のプライバシーにかかわる問題を秘めています」
「構いません」
「ですが……」
「私が構わないと言っているのです。どうせいつかは知れることではありませんか。こちらの要求が呑めないのなら、聴取には一切応じかねます。署に帰って上司にそのように伝えなさい」
九十歳とは思えぬかくしゃくたる態度に、漆原は苦笑して頭のうしろを掻いた。ここは相手に花を持たせたほうが良さそうだ。
「分かりました。では、同席していただいても結構です。ただし、西園寺遥香さんには席を外していただきます。お母様の犯罪にかかわることですし」
漆原としては、この場で遥香に過酷な現実を知らせることに躊躇を覚えた。
同じ年ごろの娘を持つ身ゆえのいたたまれない気持ちがあった。
しかし梅子は許さない。
「いずれ知れることを、なぜ隠し立てするのです。遥香は西園寺コーポレーションCEОの座を継ぐ身です。その程度のことに耐えられなくてどうしますか。むしろ、母親の容疑事実に正面から向き合う必要があります」
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