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「利勝氏は、この歯ブラシをある民間の研究機関に持ち込んでいます。そこで遺伝子解析を依頼しているのです」
「遺伝子解析?」
「ええ。自分のDNAと、この歯ブラシの持ち主のDNAを比較して親子関係の有無を調べています」
「どうして、そんなことを……」
と言いかけて、遥香はハッとした顔になり、言葉を呑み込んだ。
理由はひとつしかないと気付いたのだろう。
「利勝氏は、あなたと自分の間に血縁関係がないのではないかと疑っていたのです」
遥香は怯えたようにかすれ声を発する。
「……それで?」
「鑑定の結果、お二人の間には、99・9999パーセントの確率で、親子関係の存在は認められませんでした」
「出鱈目です。なぜそんな嘘を言うのですか!」
突然、梅子が猛然と吠え立てた。
「出鱈目かどうかは、西園寺洋子さんにお聞きください。彼女がすべてを知っているはずです」
全員の視線が一斉に洋子にそそがれる。
洋子はすでに顔を伏せ、背中を丸めた状態で、恥じ入るように身を固くしている。
その姿が彼女の答えだった。
「なんとか言いなさい、洋子!」
容赦のない梅子の怒声が浴びせられる。
「まさか……そんな……」
遥香は茫然とした表情でつぶやいた。
その顔がみるみる蒼ざめていく。
目は焦点を失い、唇はわなわなと震えている。
「洋子、嘘だと言いなさい」
梅子は渾身の力で叫んだ。
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