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「そんなことは嘘だと、この刑事に言っておやりなさい。遥香が利勝の娘ではないなどと……私の孫ではないなどと……そんなこと……私は断じて認めませんよ。絶対に許しません」
「お義母さま」
洋子の瞳からどっと涙が噴き出した。額を床にこすりつけると、
「すみません。お許しください……どうかお許しください。お義母さま」
全身を激しく波打たせ、謝罪の言葉を繰り返す。
その姿を見て、梅子は惚けたような目になった。じりじりと後ずさっていく。
現実を受け入れられない様子で、嫌々をするようにかぶりを振りつづけている。
囁くような小声で言葉を発する。
「なぜ……謝るのです、洋子。……顔をあげなさい。……遥香は……遥香は、私の孫ですよ。そうでしょう? 私の血を分けた孫です。……唯一無二の……かけがえのない……西園寺家の血脈を受け継ぐ……たったひとりの……他に代わりのない……」
くらっ、とめまいを覚えた様子で、うしろに倒れ込んだ。
樽見順子がすかさず抱きとめ、近くの椅子に座らせる。
「お母様、どういうことなの」
遥香が怒りに駆られた顔で母を糾弾した。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
洋子はひたすら謝罪の言葉を繰り返すばかりである。
「どうか許してください。すべて私が悪いんです。全部私のせいなんです」
「お前という女は!」
獣のような咆哮が鳴り響いた。
梅子が勢いを取り戻し、樽見順子の手を払いのけると、猛然と洋子に襲いかかっていく。
罵声を浴びせながら、我を失ったように洋子の髪の毛を引っ掴み、振り回す。
九十歳の老婆はほとんど錯乱していた。
「この売女が!」
「おばあ様、やめて」
遥香が後ろから組みついた。
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