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彼の誠実で真摯な態度に触れるたび、洋子の心は揺れ動いた。
利勝の背景にある家柄や財産も大きな魅力だった。
彼と結婚すれば、何不自由のない生活が送れる。涼介に最高の教育を受けさせてやることも可能だ。
次第に洋子の心は本木から離れ、西園寺利勝へと傾いていった。
しかし何の落ち度もない本木に別れを切り出すきっかけが掴めず、また、梅子から利勝との結婚を猛反対されていたこともあり、本木との関係もずるずるとつづけてしまった。
利勝との結婚が破れた時に備えて、保険として本木をキープしておきたいというずるい思惑もあった。
身勝手と言われればそれまでだが、小学生の男の子を抱えたシングルマザーにとって、男性の経済力は手放せない命綱だった。
これを失うことは恐ろしかった。すべては子供のためだった。
利勝との結婚後、すぐに遥香を身ごもったが、洋子には利勝と本木、どちらの子供か分からなかった。分からなくても特に問題はないと考え、長年放置していた。知るのが怖いという気持ちもどこかにあった。
昨年の12月20日、利勝の後継披露パーティーが開かれた日の朝のこと。
利勝が唐突に一枚の紙を突きつけてきた。
遺伝子解析情報センター名義の書類で、DNA鑑定の結果が記されていた。
利勝と遥香の間には、親子関係が認められないとする検証結果である。
「いったい、どういうことなんだ。説明してくれ」
洋子は一瞬、息が止まる思いがした。
遥香は夫の子ではなかった。
それでも次の瞬間には鑑定結果を頭ごなしに否定していた。
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