菊池詩織

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 隼人は妻子と別れ、詩織との結婚を選択してくれた。あまりの嬉しさに天にも昇る心地だった。  恋に溺れていた。彼の良い面しか目に入らなかった。  隼人は一時期、月に一日も休みが取れないほどの売れっ子だったが、詩織と結婚した頃には仕事が激減し、端役に毛の生えたような役しかもらえない鳴かず飛ばずの俳優に成り下がっていた。  それでも実家が北関東を中心に手広くパチンコホールを運営する大資産家で、彼も名義上役員に名を連ねていることからお金には不自由せず、新婚生活は六本木の高級タワーマンションで始まった。それも二戸を一戸に繋げた広大な部屋だ。  彼の持つ資産も、詩織にとって大きな魅力の一つだった。    財布の中身を気にせず好きなだけ買い物を楽しめるセレブ生活は、幼い頃からずっと憧れていたものだ。  ブラックカードでどこへ行っても特別待遇を受けられた。  その日の食事にも事欠く貧しい母子家庭で育った詩織にとって、それは夢のような新婚生活といえた。  しかし、すぐに暗雲が立ち込める。
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