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隼人は、俳優として努力らしい努力もせず、親の金を浪費するだけの怠惰で自堕落な生活にどっぷり浸っていた。
昼間から酒をあおり、ぐでんぐでんに酔っぱらっては、売れていく俳優仲間や自分を起用しなくなった監督・プロデューサーの悪口を並べ立てる。
結婚前に見せていた、大人びて頼りがいのある姿とはまるで別人だった。
現状に不満ならば、俳優などさっさと辞めて実家のパチンコホールチェーンを継げばいい、と思うのだが、
「パチンコ屋なんていつでも継げる。俺は夢に賭けたいんだ」
目をキラキラ輝かせて少年のような顔で返してくる。そのくせ一向に努力しようとしないのだ。
「小さな舞台の仕事でも、積極的に受けたほうがいいよ。いい俳優はみんな舞台を経験している」
と、アドバイスしても、
「貧乏くさい仕事は嫌いだ。映画とテレビ以外はやりたくない」
と取り合おうとせず、おいしい役が天から降ってくるのをじっと待つだけの毎日。
売れてもいないのにプライドだけは人一倍高く、撮影所にも高級車で乗り付けるものだから、周りのスタッフや役者からの評判は最悪で、「主役よりいい車でご出勤かよ」と陰口を叩かれる始末。
本人は一時的にせよ売れた時期があったから、腰を低くすることができないのだ。何とか巻き返しをはかりたいと思っているようだが、どうしていいか分からないのが実情なのだろう。
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