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しかし、その程度のことなら詩織もまだ我慢は出来た。
役者としての仕事がなくても、パチンコホールチェーンの役員としての莫大な収入があるのだから。
彼女が苦しみ、神経をすり減らしているのは別のことだった。
隼人の嫉妬心と束縛の度合いが、常軌を逸する異常さだったのである。
短時間外出するのにも彼の許可が必要で、毎日どこに行き誰と会ったかを逐一報告しなければならない。彼が仕事で家を空ける時は、日に何十回も居場所を確認する連絡が入ってくる。
用事で返信できなかった時など、後で何時間もねちねちと詰問された。男性の美容師や医師もNGで、若い男性のいるパーティーや飲み会も、隼人と一緒でない限り一切厳禁。
やがて女の子同士の集まりでさえ許されなくなり、自由な時間を確保することがほとんど不可能になった。
新婚当初は、それだけ彼に愛されているのだという高揚感のほうがまさっていたが、次第に息が詰まり始め、奴隷のような生活にやがて心が悲鳴を上げた。
愛情やお金にいくら満たされていても、自由のない生活がこれほど辛いものだと初めて思い知った。
それでも、極貧の幼少時代を送った詩織にとって、セレブ生活は捨てがたかった。何より彼を愛している。
隼人と別れるという選択肢は、頭の中になかった。
詩織は、子供が欲しいと切実に願った。子供さえできれば、二人の関係も少しは変容するのではないか。彼の愛情が分散し、仕事に対する真摯さや責任感も生まれてくるだろう。
だが必死に子作りに励んでも、いっこうに子宝に恵まれなかった。
隼人の両親は、息子の離婚と再婚を快く思っておらず、前妻との間の子供を今でも可愛がっている。
反面、詩織に対してはどこかよそよそしく、心を許さないところがあった。
なかなか子供ができないことに関しても、陰で隼人にいろいろ言っているようだ。嫌われているのかもしれない。
それもまた、詩織にとって大きな重圧であり、頭痛の種だった。
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