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「遥香によろしく伝えてくれ」
東京タワーが見える八畳間で外出着に着替えていると、隼人が背後から声をかけてきた。
酒臭いにおいを口から漂わせながら、妻の装いを点検するように、頭のてっぺんからつま先まで、執拗な視線を這わせてくる。明らかに不機嫌な様子が見てとれる。
それもそのはず。
今日は詩織にとって一ヶ月ぶりとなる、ひとりきりでの外出日なのだ。しかも泊まりがけである。
友人である西園寺遥香の祖母が奥多摩に所有する別邸で開かれるパーティーに招待され、それに参加するのだ。
西園寺遥香は、隼人が外出を許可してくれる唯一の友人である。
彼が遥香のことを信用していることもあるが、それ以上に彼自身の仕事に直結していることが外出許可の最大の理由だ。
「次回作で起用してくれるように、ちゃんと頼んでくれよな」
「分かってる」
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