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「はい。おかげさまで完璧です。また来月もよろしくお願いします!」
了解と返して片付けを済ませると、大地はコートを羽織ってオフィスを出た。
真冬の冷たい空気が大地を包んだが、レーはマイナス二十度の極寒の世界にいる。昨日パドマにメールを入れると、氷の回廊には結構行くが、短いルートのツアーばかりで村までは行かないという。予約が入ったら連絡するから待ってろと返事があった。
「レー、風邪ひいてないか?」
白い息を吐きながら都会の夜空を見上げたとき、コートのポケットでスマホが震えた。取り出すと「+91」からはじまる番号――インドからの着信だ。
「パドマ?」
大地はすぐさまボタンを押した。
「ーーHello?」
返事はない。電波状況が良くないようでがさがさと雑音も入る。急いでビルに取って返して喧騒から逃れると、かすかに、でも確かにひとの気配を感じた。そして、雑音の間からもれる息づかいに大地は息をのむ。
「レー?」
問いかけると、スピーカーの向こうで息が震えた。
「レー」
思いのたけを込めてそっとささやくと、涙ににじんだ声が大地を呼んだ。
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