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「もうギブです~」
情けない声と同時に横合いから袖を引っ張られ、手元が狂って予定外のキーを押してしまう。途端にがらりと数値が変わり、一瞬ひやりとしたものの大事には至らなかった。
「年下の上司に愛の手を差し伸べてください~」
「がんばれ上司」
「限界です」
河瀬は散乱したファイルに埋もれるように突っ伏して、手だけを動かして頭上で大きくばってんを作る。
「うちの会社って外資に倣えでそれらしいこと言いつつも、ちっとも古い体制捨てきれてないっすね。年功序列なんて今どきないわー」
「うん。そうだね」
何百回と繰り返されている主張をやんわりと受け止めて、梯大地は指の動きを再開する。
「梯さんの方が経験も知識もあるのに、中途だからって俺の部下なんてありえないっすよ。みんなそう思ってるんですよ?」
「俺は気にしてないよ」
「俺は激しく気にしてます! 主任って二文字がつくだけで、会議資料やら月次報告やら、わけわかんないもの準備しなきゃなんないっすよ」
「勉強になるよ」
「それはわかってるんですけどっ――……。わからないんです~」
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