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だから教えてくださいと頭上で両手を合わせる。黙っていれば個性的で二枚目の河瀬は、喋って動くとたちまち三枚目になってしまう。入社四年目で大地より四つ年下の上司だ。
「ちょっと待ってもらっていいかな」
ひとこと断って大地が入力を続けていると、隣から河瀬がじっとみつめてくる。
「なに?」
「仕事ができる男はいいっすね」
子供のようにふくれるのがロブサンを彷彿とさせ、大地が口元を緩めると河瀬がくわっと吠えた。
「敗北感すら味わえない俺の気持ちがわかります⁉︎」
「お待たせ。会議の資料見せて」
さらりといなして大地が手を出すと、お願いしますと資料が乗せられる。色とりどりの付箋にぐるりと囲まれた資料は、インドの僧院で見た千手観音のようだ。
「自分でも突っ込みどころ満載なんですけど、頭が固まって動きません」
朝から机に張り付いて奮闘していたのは知っているが、意気込み過ぎてにっちもさっちも行かなくなったようだ。
「大丈夫、ちゃんとできてるよ。構成をもう少しひねればいいんじゃないかな」
「ほんとですか?」
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