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勤務地にインドを希望したものの、最初に配属されたのはマーケティング統括部。サラリーマンなら仕方のないことなので、今は置かれた場所での仕事に励んでいた。
「ただの貧乏旅行だよ。ちょっと期間は長いかもしれないけど」
「その『ただ』とか『ちょっと』がクセモノなんですよ」
声高に主張されてそういうものかと思いつつ、カップを片手にデスクまで戻る。河瀬は腰を落ち着けるなりフロアをきょろきょろと見渡して、椅子ごと大地に寄せてきた。
「じゃあ、この機会に訊いちゃいますけど。ずばり恋人はいますか?」
「いるよ」
あっさり答えると、河瀬はぷっとふき出した。
「そりゃそうですよね~」
「なんで?」
「なんか安心しました。未知の世界を生きてるけど、梯さんもふつうに男なんだ〜って」
にこにこしながら胸をなで下ろす河瀬を見て、大地は言葉をのみ込んだ。その恋人が六千キロの彼方にいることを。
「梯さんがきて以来、女性陣から質問攻めっすよ。ひとりなわけないじゃんって言っても、毎日遅くまで残業してるとかスマホチェックしてないとか。女のひとの観察力ってすごいですよね」
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