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負の感情は含まずに感心してみせると、河瀬は「で」と質問を続けた。
「相手はどんな方ですか? 誰にもいわないから教えてくださいよ」
好奇心いっぱいなまなざしに押されながらも、大地はレーに思いを馳せる。
ひとつ屋根の下で三月ほど暮らしたというのに、最後までレーの笑顔を見ることはなかった。だから脳裏に浮かぶレーは、いつも少し寂しげな面輪で一心に大地をみつめてくる。ツェリン一家の明るさとやさしさに包まれながらも、夜にはひとり膝を抱えている。
大地があの村を去ってからは、残していったコーヒーでカフェオレを飲みながら、大地のあげたナイフをきっと握りしめている。
「なんていうか……。いじらしいひとだよ」
「ぶはっ!」
紙コップを傾けていた河瀬が思い切りむせ返り、慌ててハンカチを取り出して口元を拭った。
「大丈夫?」
「すんません! ちょっと耳慣れない言葉を聞いたもんでっ」
「そう?」
大地が首を傾げると、ぶんぶんと首を上下してから今度は横に振る。
「や、なんていうか想定外というか。いえ、あの……マジで動揺してます!」
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