私はあの子になりたかた

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「美里、今度陸上の大会なんでしょ?」  胃のなかに、ハンバーグを押し込んでいく。  父は今日も帰ってこない。 「美恵は毎回全国で賞を取ってるんだから。美里も頑張ってね。」  姉は隣で、目の前のハンバーグをニコニコしながら食べている。 「わかったよ。頑張るね。」  箸を止める。肉の臭さだけが口の中に残る。  笑顔で、母を安心させる。 「お母さん、近所の人に自慢しちゃう。去年は残念だったけどね。」  去年。800メートル二位。リレー三位。  惜しくも、どちらとも全国を逃してしまった。  どちらも姉が出た競技だ。それらを、姉は一位で通過。  全国大会でも、優秀な成績を残した。   「私も練習もっとしなくちゃ。えへへ」 「学校の陸上部は、月曜日お休みなんでしょう?記録を伸ばしたいなら、月曜日も陸上クラブに入ってでも練習したら?」  捲し立てるように言う母。  また、始まった。  私の大会のことは、母はよく、「何でこんなこともできないの。」と口うるさくいうのだ。 「月曜日は、勉強したいの。学校でも勉強してもっと成績あげたいし。」   月曜日。あの放課後の時間がなくなってしまう。  それだけはダメ。あの空間がないなら、私…。 「勉強は、できて当然なの。お姉ちゃんを見習いなさい。勉強も一位。何でもできるじゃない。」 「でも。」 「でもじゃない」  母は一気に険しい顔になった。  ここで、私の意見は求められていない。  月曜日…。なんで…。 「お姉ちゃんみたいに頑張ってね。お母さん、信じてるから。とりあえず、陸上クラブの先生は、お母さんが選ぶから。先生もちゃんとした人よ。お母さんは、美里のために言ってるの。」  お母さん…。と口を開こうとしたと当時に 「お母さん、押し付けは良くないよ。」  姉が、ずっとしゃべるお母さんを遮る。さっきまでの笑顔はどこ行ったのか。  母に似た険しい顔をしたお姉ちゃんがいた。  ハンバーグは完食しており、残りは白米と味噌汁という、アンバランスな食べ方をしている。
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