私はあの子になりたかた

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「青色は真由の色だよね。」  暑い十畳の無機質な教室。あるのは、長机一つとパイプ椅子が二つ。  扇風機の音だけが聞える。 「ほんと?じゃあ、次も青色に染めようかな。」  彼女は、向かい側に座って首まである髪の毛を指で絡めながら、ニンマリと笑う。  色が褪せて、黄色になりつつあるそれから目が離せない。 「でも、先生は怖くないの?私、怖くて染めらんないや。」 「案外そうでもないよ。結局、先生は見た目で生徒を決めるんですか?先生は白髪染めしてるのに?って言ったら黙った。」 「白髪染めときたか。」  屁理屈もいいところだ。でも、先生が黙ったのは、下手したら私達の髪の毛くらいで態度が変わる先生なんてやめたらどうですか?等と捲し立てるのがわかったからだろう。  でも、彼女らしいともいう。  自分を持っていて、周りに影響されない春井真由。  放課後、「国語準備室」は、今じゃ使われていない様子で、殺風景だった。 「美里は好きだったもんね。あの青色。」 「うん。大好きだった。今の真由も好きだけど。」 「ええ。私のどこがいいの?問題児よ。」  うん。そこがいいの。先生や周りの目を気にしないで、そつなくできるところ。  私は貴方になりたい。 「なんでだろうね。わかんないや。」 「なんじゃそりゃ。」  私はようやく彼女から目を離し、自分の課題をやる。桜庭高校の偏差値は県内で1番。課題もそれ相応だ。  私は努力しなくちゃ。  そう思い、シャープペンシルを握りなおす。  問題集に目を見るが、早速躓いた。  数学は元から苦手だから。うんと時間をかけているが、理解するのに時間がかかる。空間のベクトルとはなんだ。本当にやめてくれ。  私は才能がないから。努力をしないといけないのに。ここで躓いたらダメなのに。  心臓がどくどくする。  「ああ〜、これはね」  声が聞こえた。  問題集を盗み見た彼女が、解説を始めた。  私の筆箱から取り出したシャープペンシルを握り、解き方を解説していく。 「ってことなんだけど。ここまでは大丈夫?」 「うん、ごめん。助かる。」  心拍数が落ち着いてきた。 「次もこの考えでいけば大丈夫だよ。」  真由は、私の頭に手を乗せながら 「まぁ、難しいもの。ゆっくりしたらいいよ。」 「ゆっくりしても,テストや模試で間に合わなかったら終わりじゃない?」 「美里はそんなミスしないでしょ?本当,いい子だね。」  頭を撫でられた。と思う。  よくこんな長い髪、手入れできるよね。と言いながら、髪を撫でる真由。 「背中まであると、ドライヤー大変でしょう。」 「もう慣れたよ。小学生からこの髪型だもん。」  「そうなの?信じられない。私、メッシュいれただけで髪の毛ギシギシでお風呂に入るのが面倒なのに。触ってみ?」  と、シャープペンシルを握っていた手で、彼女の髪の毛を触る。
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