私はあの子になりたかた

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彼女といる時間はあっと言うまに過ぎてしまった。  19時。  桜庭高校の部活動終了時刻だ。   「それじゃあ、私先に帰るね。」 「うん。また今度。」    扇風機を切り、真由はカバンを持ちながら帰る。  彼女は、私より先に帰る。  特に決まった理由があるわけではないけど、待たれると焦る私に対して気を遣っているのだろう。    彼女は、人をよく見ているな。と毎回感心する。    参考書を学生鞄の中に入れ準備室を出る。  準備室自体、あまり使われないようで近くには人がいない。  初夏のおかげか、外はまだ明るい。  準備室は、校舎の四階なので下駄箱に向かう為、階段を降りる。  木を基調とした落ち着いたモダンな高校。  図書館は、県の中でも一、二を争う広さを持つ。  そんな校風が、女子生徒を中心に人気な高校。  私からすると、こんな古臭い高校の何がいいのかはわからないけど。    そんなことを考えながら、階段を降りていく最中、廊下から反響する足音が聞こえた。   「あ、川畑さん。こんな時間までお勉強ですか?」  廊下から出てきたのは、ひょろっとした幸が薄そうな、蒲倉先生が喋りかけてきた。 「また、国語準備室ですか?そんなに集中できますかねえ〜。」  間抜けたような声で喋る。 「そうですね。人がいなくていいですよ。集中できます。図書館だと、本に目がいっちゃって…。」  えへへ。と効果音がつくだろう顔で答える。  きっと、姉ならそうしただろうから。   「そうですねえ。誘惑が少ない方がやっぱりいいですよね。」  と、うんうん頷く先生。 「お姉さんのように、勉強も部活も頑張ってください。陸上では惜しいところまでいけたそうですね。今年こそ頑張ってください。」    ああ・・・  うるさい。   「先生も、ちゃんと寝てくださね。でも、先生の科学の授業は、特にわかりやすいのできっと日々努力されているんでしょうね!」  さすがです。と付け加える。みんなが求める笑顔で。みんなが求める声のトーンで。   「では、先生。私は帰りますね。」  階段を降りる。  ここには居たくない。  息が詰まる。 「はい、気をつけてください。徒歩通学でも気を抜かずに。」    そう言うと、先生は階段を上っていく。  私と反対方向へいく。    よかった。あれ以上、一緒にいたら姉のように笑えなかった。  人が頑張って、努力しても手に入らない才能。  それを持っているのが姉だ。  勉強も、運動も、トップクラス。  先生も親も私に、姉のように。と求めている。  私はただの凡人だ。凡人なんだ。  必死に、咲こうとする花の私とキラキラ輝いてるひまわりの姉とは、土台が違うのだ。    でも。それは言えない。    ローファーを履き、校門に出る。  徒歩10分。  姉が、桜庭高校を選んだ最大の理由は、ただそれだけ。  姉の人生をなぞる私。    できたばかりのアスファルトを歩く。      
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