のし餅売り切り大作戦

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「私ね、次女なの。」 「私も下の子です。上に兄がいます。」 「申し訳ないけど、人を見てすぐにそれを真似するのが得意なんです。」 「わかります。」  私は5歳くらいの子どもを連れた母親に声を掛けた。スーパーでの買い物客ではない。ちょっと散歩をしてました、という感じの親子だ。 「寒いですね。お散歩ですか?」  アルバイトちょっと暇してます。という感じで話しかける。寒いですねと母親は好意的に返してくれる。 「お餅、30日まで売ってるので。良かったらお買い物の時に見てみてください。まだ今日ならやわらかいので、あんこのお餅とか、きなこのお餅にできますよ。あ、幼稚園とかでお餅つきしてますかね。あんな感じなんですけど。」  私は、途中で、あ、ほんと寒いですねすみません立ち話しちゃってと謝りを入れる。  へぇ、去年は餅つきあったんだけど、今年はなくなっちゃったんです。衛生的にどうのとかで、餅つきをやめちゃう幼稚園、多いんですって。と母親が関心を持つ。お餅、食べたい?あんこときな粉の。と子どもに聞くと、食べたい!と返ってくる。じゃあ買っていこうか。 「あんこときな粉は店内で販売してますので。」  花霞さんが袋に入ったのし餅を渡しながら母親に店内を案内する。それ、忘れちゃだめだよねと親子は店内に入って行った。 「買い物はお客様の責任だけど。なんか、あの親子の今日と言う一日にちょっとした楽しみがもたらされたという点では…。」 「はい。」 「とてもいい気分になった私がいる。」 「はい。私もです。売りつけている、という点は否定できませんが。このお買い物を後悔する方はいないと思いますよ。だって、お餅は美味しいですから。」 「お正月を迎える人の手助けができてると思ったら、嬉しいねこれ。」 「世の中はAIに取って代わられる時代になりましたが、接客して販売をする職業はなくならないと、私は思いますよ。人間の接客は気分を害する場合もありますが、温かいものはとても気持ちがいいですから。それは無くせないと思います。」 「なにそれ、すごい説得力。中の社員さんに教えてあげた方がいいよ。」  きっともう知ってます。ああいう笑顔で接客する人は。花霞さんは店内をチラっと見て楽しそうに動き回る社員を指さした。 「もう、寒くないんじゃないですか。」 「あ、本当だ。」  寒波は日本の上空に居座ったままでも、私の体は温かさを感じていた。  花霞さんがじゃあ、次は私の番ですと立ち位置を交換する。店内を見るとレジの店員さんが笑顔でさっきの親子に手を振っていた。母親が頭を軽く下げ、男の子がシールを貼ってもらったお菓子を持ちながらグーで手を振っている。 「ただ売るだけじゃつまらないね。」  私は花霞さんにちゃんと自己紹介がしたくなった。私、加藤です。またどこかで会えるといいけど。と名札を左右に動かして見せた。
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