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次は花霞さんの番だ。さっきもほぼ花霞さんの手柄だったけれど、今度は最初の声掛けをどう切り出すか、お手並み拝見といきましょうかと立ち位置を交換する。
実は、目的を持ってのし餅に一直線で買い物に来るお客様も10時を過ぎて増えて来ていた。一人はそのやりとりに集中しなくてはいけない。
花霞さんはそれを知っていて、ビニールに注文されたお餅を入れながら、声を掛けるお客様を物色している。
「あ、ねぎ、ねぎ落ちましたよ、お客様!」
店内から急いで出てきた60代位のおじさんがエコバックからねぎが落ちたのを呼び止める。ちょっと怖そうな顔をしていて、これはこのまま流すだろうと私はお金のやり取りに集中していた。
「ねぎを教えてあげたんで、のし餅はいかがですか?」
花霞さんは戻ってきたおじさんに、さっきまでとは違った、ふざけた感じでのし餅を売りつけにかかった。美味しいんですよー。見てみてくださいよと笑顔でおじさんをテントの前まで誘導する。
なによ。そんなにうまいの、これ。俺は正月は餅なんて大して食べないんだけどさ。怖そうな顔が一気に崩れて、気さくなおじさんが現れる。人って顔では内面が分からないものなんだ。
「買った方がいいです。だって、今日はここにあるだけなんですよ。まだ柔らかいから、今日そのまま食べてもいいし。」
今日食べちゃうんだったら、正月のがなくなっちゃうから2枚必要だよな?
とおじさんは2枚ののし餅を購入した。
「ねぎを落としただけなのに。すごいじゃん。」
「おじさんはお話が好きですから。きっかけがあればこんなもんです。」
花霞さんは私と立ち位置を交代した。
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