君が覚えていなくても

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君が覚えていなくても

 うっすら目を開けたとき、ずいぶん眠ったような気がした。  長い夢を見た余韻があって、頭の奥が鳴り響くように痛かった。 (ここは……)  手足が痺れて動かせない。僕は点滴をされていた。 (点滴……?)  最後に自分がいた場所を、思いだすことができなかった。揺れる視界に見覚えのない白い天井が映りこむ。蛍光灯のまぶしさが目を射抜くようだった。すると、ドアが開く音がして、誰かが近づく気配がした。 「気分はどうですか」  そんな質問をされた気がする。僕は答えられなかった。喉がカラカラに乾いていて、何か言えるとも思えなかった。  夢の断片を覚えていた。僕は誰かと一緒に、同じ時を過ごしていた。世界の例外のような場所で。きらめく追憶と幻想、今にも消えそうな永遠のなか。 (その夢のなかで、僕は誰かと誓ったんだ。それを守りたかったんだ。それだけが唯一の、存在意義だと思ったから)  分からないのがもどかしかった。誰かを見つけた気がするのに。狂おしいほどの焦燥のなか、名前を呼んだ気がするのに。 (今は、二度めの春だろうか……)  そんな風に考える自分自身が不思議だった。        まだ意識がもうろうとして。  気づいたら、また深く眠っていた。
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