その言葉は楔となって

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***  気づけば僕はまた、彼女を見失っていて、 (やっと会えたのに)  その思いが胸に残って。  漆黒の夜空に星が流れて、  絶え間なく降る雨みたいに、  川面に光の道筋が、合わせ鏡のように映って、まるで遠い予言のように、彼女の言葉を連れてくる。  僕は―― 『今』がいつで、  自分がどこにいるのか分からないまま、  星が流れたその先で、  やがて――意識を手放した。   ☆  夢のなかで私は、ずっと誰かと一緒だった。  ふたりで色んな場所に行った。  美術館。夜の公園。  学校の屋上。夕暮れの海。  流れ落ちていく星を、ふたりで一緒に眺めたこと。  それは鮮明なイメージだった。  まるで現実と見まがうような。  夢なのに、夢じゃないような。  そこは――世界の《例外》だった。 (これが夢なら、覚めないでほしい)  そう願っていたけれど、いつか覚める夢だと、夢のなかで知っていた。  ある地点が訪れたら、儚く消えてしまうだろうと。 『――光琉』  誰かが私を呼んでいた。  ずっと届かない場所へ、手を伸ばし続けるみたいに。  その響きを知っている。  私は夢のなかで、ずっと『彼』に惹かれていた。でも、どこかであきらめていた。  きっといつか永遠に、別れる日がやってくるって。さみしいのに、でもなぜか、 ――とても温かな気持ちだった。 「だいじょうぶ?」  と声がして、  とぎれとぎれに夢を見て、 《さようなら》  筆跡だけが残されて。  目に見えない速度で、  誰にも知られない場所で、 (まるで世界の秘密のように)  星が流れた気がしていた。 『僕は今、夢でもいいから、ただ彼女に会いたいんだ』  叫ぶように 『彼』が言って、  その言葉に泣きそうになる。 (私も、ずっと会いたかった)  もっと一緒にいられたら。  夢のなかで私は、 何の約束も、交わすことができなかった。  彼の深い青色に、ずっとずっと魅せられたまま。  『私』は、  彼がこれからもずっと、  生きていることを願っていた。  途方もない祈りだった。  叶うはずのない夢だった。  ――けれど。  私の知らない『私』は、  彼が、  二度めの春を迎えたら――目覚めることを知っていた。     ***
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