君が覚えていなくても

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 次に目が覚めたとき、僕は前と同じ病室のベッドに横たわっていた。頭がやけにぼんやりして、現状を把握することができない。目の前に知っている輪郭があった。僕が起きたことに気づくと、弾かれたように顔を上げた。 「蒼……」  その人は、僕を見ると泣き始めた。  疲れたような眼差しは今も変わってないけれど、両目には僕が映っていて。  母親が泣くのを初めて見た。感情をさらけだしたまま、僕を見つめているのが信じられないくらいだった。 「蒼」  母親は何度も、名前を呼んだ。そうしなければ僕が、消えてしまうというように。そうなるのを恐れるように。  大丈夫。僕はそう言いたかった。でも、声は出なかった。相変わらず、激しい喉の渇きを覚えていた。母親に名前を呼ばれたのは一体何年ぶりだろう。思いだせないくらい、はるか遠い昔だった。僕のなかの小さな僕なら、きっと簡単に応えただろう。けれど、現実の僕が応えるには、もうあまりにも遅すぎた。この人が、今まで僕を無視し続けていたように、僕も母親を見ることはもうないような気がしていた。何度も呼ばれた名前だけが、ずっと満たされなかった心の奥底にこだまするようだった。
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