君が覚えていなくても

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 蒼くんは―― 「いきなり光琉が事故で死んでないかって聞くから、ホントにびっくりしちゃった。けっこう本気で気にしてて」 「そうなんだ。蒼くんが……」  ――私を、助けてくれたんだ。  また鮮明に、あのときのことを思いだして。  胸の底が熱くなって、いつのまにか涙がぽろぽろこぼれていた。  ずっと入院していたなんて、そんなこと全然知らなくて――私の知らない世界で、奇跡が起こったような気がした。 「というか、光琉もいつからそんな仲良くなったの? ふたりとも名前で呼んでるし。私に隠れて付き合ってないよね?」 「付き合うとか、そんなんじゃないよ!」  その言葉に顔が火照って、思わず必死で否定した。 「えー、あやしいなぁ。でも、だとしても遠距離じゃん。退院したし、会いに行ったら?」 「え、でも……」  一度速くなった鼓動は、なかなか収まってくれなかった。 「光琉の連絡先教えようかと思ったんだけど、御幡くんスマホ持ってないでしょ? ていうか高校生でスマホないとか、絶滅危惧種なみじゃない?」  でも、そんな蒼くんだから、夢で会えた気がしていた。  学校にいないのは知っていた。机に花瓶が置かれていて――アネモネを買ったのを覚えていた。橋からひとつずつはなったことも。でも、すべては曖昧な過去の記憶にまぎれていた。  今は、蒼くんが生きているって分かっただけで、それだけでいいはずなのに。
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