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「相変わらずナイスパンチだな、クリン坊!」
「いやあ助かったぜ。さすがはクリン坊だ!」
あっという間に相手を叩きのめし、見事、争いを収めたドラコ少年に、仲間達は賞賛の言葉を口々に送る。
ちなみに〝クリン坊〟というのはドラコの仇名だ。〝フランクリン〟という本名を略したのと、坊主頭にしているのが〝毬栗〟に似ているところからきている。
子供ながらに身体が大きく、度胸もいいし腕っぷしも強いドラコは、こうして仲間達から頼りにされ、重宝がられていた。
しかし、ヤンチャに過ぎるドラコが、一介の船乗りなどで満足するようなタマであるはずがない。
ドラコが15歳になった頃のこと。ショーンのキャラック船は〝新天地〟の入口に位置するエルドラーニャ島の、エルドラニアが最初に作った植民都市サント・ミゲルを訪れていた……。
「――おお! かっきいい! 最新式じゃねえか!」
その美しい流線形のフォルムを目にし、ドラコは思わず興奮した声をあげてしまう。
休憩時間、波止場をぶらぶらしていたドラコは、偶然、桟橋に泊められていた真新しい一艘の三角帆付き小舟を見つけた。
エルドラニア領オランジュラント地方で発明された〝ヤットスリップ〟と呼ばれるもので、かなりのスピードが出る高速艇だ。サント・ミゲルに住むエルドラニア人貴族か金持ちの商人が道楽で買ったものだろうか?
その小舟を見た瞬間、ドラコはそれが欲しくなった……だから、その夜、彼はそれを盗むことにしたのだった。
「――よし。うまいこと誰もいねえぜ……」
深夜、ショーンの船をこっそり抜け出したドラコは、その〝ヤットスリップ〟の泊まる淋しい波止場の外れへと再び向かう。場所も大きな船が泊まるメインの桟橋ではないし、さすがにこの時間帯だと周囲に人影はなく、船を盗んだとて見咎められることはない。
「こんなもんじゃ俺様を止められねえぜ……オラよっと!」
それでも、さすがに防犯のために桟橋の支柱と小舟は南京錠付きの鎖で繋がれていたが、ドラコは持ってきた斧を振り上げると、それも一撃で叩き切ってしまう。
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