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「――俺がフランクリン様だ! 憶えとけやコラっ!」
「ごはっ…!」
今日もまた一人、路地裏でたむろしていたゴロツキの一人がドラコに殴り飛ばされる……。
海賊の島でまずドラコが行ったことは、ケンカに明け暮れることだった。
いや、なにも最初からそうしようと思っていたわけではない。
海賊としてやっていくに当たり、船乗りとしての経験はすでに充分積んでいたし、また誰かの下につくというのも嫌だったので、とりあえず仲間を集めて自前の海賊団を立ち上げようと考えたのだったが、なにせあの俺様な性格だ。
同じような年頃の、血気盛んな若者達に声をかける度に、当然、ケンカとなって腕づくで舎弟とする羽目になったのである。
だが、ケンカに自信のあるドラコはそのやり方で次々と手下を増やしてゆき、すぐに小規模な不良グループを形成するに至った。
その頃には子供っぽいので坊主頭もやめ、黒髪を伸ばすとポンパドール&リーゼントに固め、服装も背に〝赤いドラゴン〟の描かれた黒革のジャーキン(※ベスト)を素肌の上に羽織り、だぶだぶのオー・ド・ショース(※半ズボン)を履くという厳しいものに変えていたが、その凶暴さと背中の〝ドラゴン〟から、巷では〝悪龍〟の異名で恐れられるようにもなった。
ちなみにいつの頃からか名乗り始めた〝ドラコ〟という姓も、このドラゴンを意味するものである。
しかし、そうして名前も売れ出し、ちょっと調子に乗っていたある日のこと……。
「――おっさん、あんたがあのウォルフガング・キッドマンか? ちょっと俺のタイマン買ってくれよ」
肩で風を切り、一味のメンバーと大通りを闊歩していたその時、偶然にも大物海賊の引き連れていた一団に出くわすと、あろうことかその海賊の頭目に無謀にもケンカを売ったのだ。
ウォルフガング・キッドマン……その髭面の左眼に眼帯をし、黒のジュストコール(※丈の長いジャケット)に三角帽を被った大男は、このトリニティーガーでも一二を争う実力を持った大海賊であった。
だが、調子に乗っているドラコはそんなキッドマンを打ち負かし、さらに名を上げようと考えたのである。
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