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1 薄暑
母が死んだ。
夏が始まる前のことだ。
突然のことだった。母は健康な53歳で、死ぬにはまだ若かったし、父も私も、全然そんな準備はできていなかった。
嘆く間もなかった。
死因は失血死で、緊急手術をするもむなしく母は逝った。
離れて住む私はもちろん、父でさえ最期の時には立ち会えなかった。
呼び出されて向かった病院と警察とで言われるがままに書類を書いたりしているうちにあっという間に葬儀は終わった。
喪服なんて持ってなかったから量販店で買った間に合わせだ。
襟元におもちゃのパールがついたアンサンブルで、半袖のワンピースと長袖のジャケットがセットになったやつ。
この時季の葬儀にはジャケットを着るべきなのかどうか迷ったことだけはよく覚えている。
まだ蝉も鳴かない、だけど、とても暑い日。
火葬場で見上げた空はバカみたいに青かった。
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