2 七夕

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「どうしたの?」  おそるおそる声をかけても男の子は答えない。 男の子はその手にはあまるほどの大きな銀色のボウルを抱えていて、彼が泣くたびにボウルに張った水の中で白い豆腐が細かく揺れた。 お豆腐? 私は首を傾げる。 なんでこの子、こんな道端でむき出しの豆腐を持って泣いているんだろう。 「どうしたのかな?もう遅いけど、おうちはどこかな?」 なるべく笑顔で話しかけてみても、男の子は私のことなんて全然無視して泣き続ける。 もとより私も子どもの扱い方なんてよくわからない。 手を繋いでみる? いや、無理だ。この子の両手は豆腐のボウルでふさがっている。 背中をさすってみる? でも急に知らない人に体に触れられたらより恐怖を与えてしまうかもしれない。 結局私は男の子のそばで無言でしゃがみこむしかできない。 途方に暮れていると「睦樹(むつき)!」と背後で声がした。
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