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涼香の家庭
「涼香さんの人生も、なかなか心を打つものがありましたよ」
鬼たちも、興味津々といった目を向けた。
「そうですか。多分拓真さんよりは、つまらない人生ですが、お話しましょう」
「僕は、涼香さんこそ亡くなってはいけない方だと思いましたよ」
涼香は少し物思いにふけるような顔をしていたが、拓真と鬼たちの方に向き直った。
「私の家は、子だくさんで…… 兄弟が6人いました。小さい頃から家事を手伝って、生活は食いぶちが多いせいで、貧しくていろいろ工夫しながら暮らしていました」
「お会いして、全然そんな風に見えませんけどね…… 外連味がなくて、芯がしっかりした方に見えます。もっとエリートだと思っていました」
鬼たちも小さくうなずいた。
「私が12歳のときに、母が病気で亡くなって、それからは姉たちが母代わりのように面倒を見てくれました。私は末っ子だったので、小さい子の面倒を見ることはなかったのですが、いつも家事を手伝ってばかりで、拓真さんのような輝く才能なんてない人間です」
大きく首を横に振ると、拓真は赤鬼に向かっていった。
「人生で最も大事なことは、身近な家族のために尽くすことだと思います。一芸に秀でることよりも、ずっと大事なことだと思います。そう思いませんか? 」
「そうですね。自分は家族を犠牲にして、音楽にのめり込んでいました。生活の全てをオーケストラに捧げて生きていたのです。有名になったって、親戚からは冷たくされたこともありますよ」
腕組みをして、しみじみと赤鬼が言う。
「一番上の兄は、たくさん勉強して防衛大学校に入りました。学費がかからず、給料がもらえるからです。他の兄と姉は皆進学せず、働いて家にお金を入れてくれていました。私が高校生になる頃には、結構余裕が出てきて、進学するように勧められました」
「素晴らしい家族じゃないですか。お互いのためにできることをして、支え合う。僕にもそんな家庭があったら、もっとまともな仕事をしていたと思いますよ」
「いえ。そんな…… 私には自分の夢がなかったから…… 」
今度は青鬼が話し始めた。
「赤の話と、皆さんの話をお聞きしましてね。自分もちょっと思うところがあるのですよ…… 実は、県議会議員をしていたのです。それで、子ども2人と妻がいまして、それなのに自分は毎晩飲み歩く有様で…… 私生活はあまり褒められたものではありませんでした」
「おおっ。お前さんこそ、そんな話したことなかったぞ。議員さんだったのかい…… 何だか、世の無常を感じずにはいられないねぇ…… 」
赤鬼がしんみりと言うと、皆押し黙ってしまった……
「家庭を大事にするってことは、人間としてとても大事なことだと思います。ですが、夢や社会の中での役割を大事にして生きることも、立派な事です…… 」
この場の4者はそれぞれに、人生を精一杯に生きてきた。
境遇が違えば価値観も違う。
そんな人生を語り合い、それぞれの胸に深く響いたようである。
「なんだか、転生することにこだわらなくても良いような気がしてきました…… 」
拓真が、ため息をついた。
「そうですね。自分がちっぽけな人間だって、思えてきました。もっと精一杯輝くような人生にするべきでした…… 」
「おまえさんたち。後悔しても始まらないぞ。自分たちは、前を向いて新しい人生を一歩踏み出す決意を胸に、迷える魂を導く仕事をしているのだ。鬼の仕事だって悪くない。こき使われているが、誇れる仕事だ」
「赤よ。立派なことを言うなぁ。自分も同感だよ」
「さてと。すっかり話し込んでしまったな。お前さんたちとは、またどこかで会う気がするよ。達者でな」
鬼たちはまた仕事へと戻っていった……
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