【小説】死後の世界でおめでとう!「月下の鬼籍」

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人間が成すべきことは何か 「じゃあ。僕たちも行きましょう」 「はい」  2人は書類を封筒に収めると、エスカレーターへ戻って行った。  7階には、地球住民課のカウンターがずらりと並んでいて、その前に列ができていた。 「あの…… もし可能なら、一緒に転生したりって…… どうですかね」  涼香が、はにかみながら小声で耳打ちした。 「僕も、そう思ってました。言ってみましょう。僕と一緒に並んでください。離れないように」  カウンターで幾つか質問をされて、中へ入っていくようだった。  何を話しているのか、気になって仕方がない。  妙にソワソワして、周りを見渡していた。 「さすがに、こんなにいたら知っている人はいないが、さっきの鬼の皆さんみたいに、それぞれ驚くような経歴を持っているのかも知れない…… 」  思わず呟いた。 「そうですね。生きている時に、もっと周りに目を向けていたら、豊かな人生になっていたのかも知れません…… 」  そして、2人の順番がきた。 「あの…… こちらの方と一緒でもよろしいでしょうか」  係員が涼香を見た。 「構いませんよ。最近は、利用者様のご意向を、尊重する事になっておりますので」  すんなりいったので、内心驚いたが、希望があれば言えばいいのだと理解した。 「では、新井様。転生したら、どんな人生をご希望されますか? 」 「こちらの、涼香さんを幸せにできるような、家庭的な男になりたいです」 「では、宮田様。転生したら、どんな人生をご希望されますか? 」 「拓真さんのような、夢を追う人を支えるような、そんな人生を希望します」 「では、お2人で奥へどうぞ。転生担当がお待ちしております」  奥には、たくさんのブースがあった。その一つに案内された。 「はい。よろしくお願いします。私は転生係の添島と申します」  事務的に淡々と話す人だ。 「では幾つか質問します。それによってどこに転生するかが決まりますので、よくお考えになってください」 「えーと。まずお2人で1口として、転生することをご希望されますか? 」 「すいません。こういうケースは時々あるんですか? 」 「はい。時々どころか、1人で来られる方の方が少ないですよ。下で鬼籍を見せ合ったり、鬼と話したりしてそういう気持ちになるんでしょうね。ははは」 「ごめんなさいね。ついでにもう一つ。転生すると記憶はなくなるのですか? 」  涼香が核心を突いた。  意気投合しても、記憶を失ったら赤の他人として再会することになる。 「そこは、何とも言えません。生前の記憶は誰もが持っています。ですが、それを封印している人が大半なのです。深層心理に作用して、恋人になったり、結婚したりする事例は多いですけどね。つまりご自分次第です」  2人とも、この説明で納得がいった。  顔を見合わせて微笑み合うと、 「では一緒に転生させてください」  気持ちは一緒だった。 了 この物語はフィクションです
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