あわてんぼう

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 一番鶏の声ではっと目を覚ます。慌てて枕元をバタバタと探る。  午前2時43分。  えっ、ふぁっ?  手探りで引き寄せたアナログ目覚ましの表示に愕然とした。何故? 逆さにしたら8時15分。余計やばい。  いやそれより何故なんだ!!  ふと思い出す。目覚ましはちゃんとセットしたはずだ! 誰かが消した!? そう思ってスマホを見ると電池が切れていた。  きェえぇええええぇぇえぇええしまったああああぁぁあああぁあ。  何故よりにもよってこの日! 寝坊なんてしたことがないのに! めったに。  あわただしく左右を見る。部屋は雑然としていた。たくさんのベットには誰もいない。思わず頭をかきむしる。起こしてくれてもいいじゃぁないか!  そうだ、昨日までの激務で疲れ果ててそのまま倒れるようにベッドに飛び込んだんだった。スマホの充電をしないまま。搬入される荷物を包装して梱包して、本当にもう、くたくたのくたで、ちょっと、ちょっとだけね、その、仮眠を取ろうと思って皆がやめとけっていうのに確か夕方にちょっと、あの、ほんのちょっとだけと思って、アラートもつけて。  そういえば誰かが起こそうとしてくれたのをあと5分とか言った、ような、気が。  あ゛ぁー。  いや、駄目だ。こんなことを考えている暇はない。頭をばさばさ振る。起きろばか。そんなことより早く早く仕事にかからないと。  ぼさぼさ頭を帽子に詰め込み転がりながらコートを引っ掛け慌てて荷物を車に積み込む。傷つけたら元も子もないから細心の注意を払って次々と。  よし、これで全部詰め込んだか。  ああもう3時10分じゃないかあ!!  いや、冬至を過ぎたばかりだからまだ夜は長い。でも油断をしてはいられない。夜が明けるまでに配り終えてしまないと警察を呼ばれてしまうんだ。本当にもう世知辛い。  けれどもわしはこの一日のために一年の間日が経つのを数えている。  シャリンと車につけた鈴がなる。足が地面を跳ねて加速するとともにその音は段々と規則的に大きくなる。  がさがさと雪道をかき分けまだ真っ暗なモミの森を抜けるとふわりと視界は切り拓けて広い丘に出た。空にはたくさんの星がまたたき様々な星座を形作っている。少し先には切り立った断崖、それでも車は止まらない。  止めてはならない。  急げ!  間に合え!  走り出せ!  車はそのままトップスピードで丘を踏み越えすぱんと宙に飛び出しながら、ちょうど横たわっていた天の川に乗り換える。 「もっと早く走れぇ! 朝が来る前にぃ!」  飾り付けられたトナカイの尻をぺしりと叩くと俺、飯食ってないんだぜとでも言うかのようにぐおぉと鳴いた。  ごめん、配り終えたらとびきりのご飯を一緒に食べよう。  Merry X'masの朝の光と一緒に。 了
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