エスタブリッシュワールド

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 こんな馬鹿げた話があるだろうか。最初から負けるとわかっている勝負に参加するなんて。  でも待てよ、それならなぜ陸上競技に参加する? ポーカー競技に参加する?  負けると思っているのは、自分の思い込みではないのか?  必ず勝つという覚悟を持って、いままで挑戦してきたことがあったか?  相手のたった一言で負けた気になっていて、いいのか? 「わかった……やってやろう」 「ルールは簡単、チップはなし、五枚のカードを配る。手札の交換、ドローは一回だけ。そして君にハンデをあげよう。私の捨てたカードは公開する」 「捨てたカードを公開する?」 「そう、私の手の内を読むことと、もう使えない役を判断するために」  たしかに相手の捨てたカードがわかれば、麻雀のように次に狙う手が読みやすい。 「ドロップ、ゲームから降りることはできる?」 「その時点であなたの負け、やり直しは効かない。それが生きるということ。ゲームスタートでいいかしら?」  僕がこくりと頷くと、クラウンは手を(くう)へ掲げた。  空中に浮遊していたカードが彼女の手元に集まってくると、鮮やかな手つきでシャッフルを始めた。  いつの間にか、目の前に木製のシックな円卓が現れ、五枚のカードがスラスラと僕の前に置かれていく。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加