57人が本棚に入れています
本棚に追加
クラウンは両手を上げて、肩をすくめた。
「おめでとう、あなたの勝ちよ。そう、それが発想の飛躍、夢、希望、野心。限界を超えたところに、隠されたカードがまだあるはず」
「それじゃあ、今の状況を打開する方法がまだある?」
「それはもう予測の範疇を超えることだから、私にもわからない。今こそ、君の切り札を出すときが訪れたんじゃない」
「僕の切り札は……」
「さあ、アイドリングは済んだかな? 現実を走り出す時がきたわ」
クラウンがトランプの束を空中に投げ出すと、カードは連なり一枚の大きな扉に変化した。
「その扉の先に、君の新たな挑戦が待っている」
僕は扉を開けると、クラウンに尋ねた。
「ありがとう、でもどうして僕を助ける?」
「私は君であり、君は私、大切な存在だからよ。これからもずっと近くにいる」
「どうしてもやっておきたいことがある。それは葉子さんに僕の想いをぶつけること」
扉の先の黒い空間に、足を一歩踏み出した。
次の瞬間、僕の頭上に鉄骨が落ちてくる情景が再現された。
「僕の切り札は……脚力!」
全神経と重心をつま先に集中し、葉子さんに向かって走り出した。
――走れ、能力の限界フィールドを突破しろ!
硬直した状態の葉子さんの腹部を抱きかかえると、路面を思い切り蹴り上げた。
――跳べ、弱気の障害ハードルを飛び越えろ!
僕は宙に舞い上がった。顔に当たる風の涼しさが、やけに気持ちいい。翼を広げた鳥になったような感覚を覚えた。
路面に着地した瞬間、背後でけたたましい衝撃音が聞こえ、地面が揺れた。
後ろを振り向くと、遠くのほうに鉄骨が歩道に埋まっているのが見えた。八メートルくらい飛んだのだろうか。自分でも信じられないほどの跳躍だった。
最初のコメントを投稿しよう!