右手のいいぶん

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 僕は追いかけた。  右手はまるでというか、当たり前だけど、五本の指をダンゴムシのように上手につかって走っていた。早く捕まえなくては。放置していたら危ない。僕の支配下からはずれたやつはなにをしでかすか分かったもんじゃない。最悪、痴漢なんて働いたらたまったもんじゃない。これは僕の右手ですが、僕がやったんじゃないんですなんて言い訳、通用するとは思えないんだ。 「管理責任というのがあるでしょう」  そうだ、ペットの犬が誰かを噛んだら飼い主が責任をとらなくちゃいけない世の中だ。ましてや右手。僕の分身。待て、待て、待つんだ。話はいくらでもきいてやる。要求はなんだ。確かに僕は右手のことをないがしろにしていた。便利だからといって感謝もしなかった。悪かった。謝ろう。これからは毎日ニベアをつけて保湿ケアをしようではないか。爪をきるときも、後回しにせず最初に右手から切ろう。たまには休みをあげたっていい。一日くらい左手でご飯を食べるのもいいだろう。だから戻ってくれ、戻ってくれええ。  歩幅のちがいというか、指幅のちがいというか、右手にはすぐ追い付いたのだけれど、ちょこまかと動くので慣れない左手ではつかまえることができない。
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