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真の無法地帯
ゆっくりと輸送ヘリのハッチが開き、促されるままにゾンビたちはその地へと降ろされた。顔を出したばかりの朝日が空と大地を真っ赤に染めている。その一群の中に水上臣はいた。
臣はその日のライブのために日本から来ていた観客の一人だった。切り立った岩ばかりの、草ひとつ生えていないその地を見回しながら、臣は昨夜の出来事を思い返した。
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某動画サイトで再生数百億を超える人気バンドがステージに上がると、会場は一気に盛り上がった。前を見ていないものなどひとりもいない。そんな状況下で、臣は左腕が引っ張られるのを感じた。興奮しすぎてすぐにはそれに気づかなかったが、体が傾くほどに腕を引かれ、臣は釘付けになっていた視線を左側に移した。
今度はそこに視線が釘付けになった。臣の腕を引いていたのは、小柄な女性だった。風もないのにふわふわと揺れているような柔らかな金髪、暗闇でも分かる雪のような白い肌、無表情ではあるが余りにも美しすぎるその瞳。
日本人女性にしか興味のなかった臣であったが、ヨーロッパ系のその女性に何故か心が惹かれた。目の前の超人気バンドの存在さえも忘れるほどに。
ギターの音が鳴り響き、場内が一斉に沸いたが、臣の耳にはそのどちらも入っては来なかった。目の前の女性に心を奪われ、そこだけ静寂が流れているようにも感じていた。
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