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無言のまま、そして無表情のまま、その女性はゆっくりと臣の腕を自身の口元へと寄せた。その女性に魅了されていたせいなのか、あるいは抗いきれない何かの力が働いたのか、臣はその緩慢な動作にされるがままだった。
女性は臣の手首に唇を寄せるとそっとキスをしたように見えた。そして次の瞬間、臣の全身に激痛が走った。女性が臣の手首に歯を立てたのだ。しかしその痛みは一瞬だった。
噛まれた刹那、全身を何かが駆け巡るような感覚にめまいを憶えたが、すぐに何事もなかったかのように痛みも消えた。今の出来事を夢だったんじゃないかと思った臣だったが、それでも地面を赤く染めた液体は、今の出来事が嘘ではなかったと告げている。
同時に臣は言いようのない体の重さも感じていた。噛まれた手を確認しようと動かした腕の動きが思うようにいかず、まるで自分の体を自分がコントローラーで動かしているかのようだった。
先ほどからずっと表情を変えず、黙ってその様子を見ていたその女の表情が変化したように見えた。同時に言葉も投げかけられる。
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