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「私の声、聞こえる?私はソフィア・イシンバエワ。あなたは?」
ステージ上では曲がサビの部分に入り、周りはまるで植え立ての新緑をたたえた稲が風に揺れているかのように一斉にヘドバンを始めた。そんな大声援と大音量の中、不思議な事にソフィアの声はとてもクリアーに臣に届いていた。
既に痛みはなく血も止まっている事に疑問を感じながらも、初めて声を掛けられたことに面食らった臣は、素直にその問いに答えた。
「俺は、水上臣、十九歳。日本人だ……というか、あんた日本語が話せるのか」
「あはは。私の事はソフィアって呼んでいいわ。私もあなたの事は臣って呼ばせてね」
ソフィアは更に続けた。
「私は、一応二十二歳って事でいいのかしらね。因みにロシア人よ」
やはりソフィアからは流暢な日本語が聴こえてくる。しかしその時、臣は言葉では言い表せない違和感を憶えていた。
「あなたの疑問は最もよね。あのね」
次の一言は、臣には到底受け入れられるものではなかった。
「たった今、貴方はゾンビになったのよ。嘘じゃないわ。だって私が感染させたんだもの。そして、言葉も通じている訳じゃないの。ゾンビになった事で、お互いの意思がダイレクトに脳に伝わるようになったのよ」
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