真の無法地帯

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「苦しくないでしょう?だって臣は今、呼吸をしていないんだから。そして」  今度は臣の手を握ると、その手を臣の胸に導いた。 「鼓動も、心臓も止まってるの、分かるわよね」 「それじゃあ、どうしてソフィアの姿が見えているんだ。俺の体が死んでいるんなら、視力だって奪われているはずだろう」  ソフィアは微笑みながら答えた。 「私にもその辺は良く分からないの。でもこれだけは何となく分かる。今の私たちは五感の全てを頭で感じているのよ、きっと」  そんな話をしながらも、臣にははだんだんと誰かを噛みたいという衝動が沸き上がってきた。それこそがゾンビと化した人類の唯一の本能である。 「目も、耳も、鼻も口も、そして肌の感覚も全部生前と変わらず感じられるのよ。でもそれは体でではないわ。これはおそらく、一般的に言うところの超能力って奴だと思うの」 「ESPの事か?」 「そう。まあ、人類の言う超能力って、遠くの音が見えたり聴こえたりだと思うけど、私たちの場合、体が五感を感じるんじゃなくて、頭で五感を感じてるってところみたい」  ソフィアは少しわざとらしく満面の笑みを浮かべた。 「私が笑っているの、分かるでしょう?でも、私の顔は無表情のままなの。私が笑っているのが分かるって事は、それは目でなく頭で感じている証拠」  その時臣が思い浮かべたのは、マトリックスという映画だった。三次元の世界に生きていると思いこまされている人類が、実は全て脳内に送り込まれた情報の中で生きていると感じているだけだったという内容のその映画と、今の状況はリンクしている。  臣は今、確かに脳内で全てを感じているのだ。 「死んでいるのなら、どうしてソフィアの体は腐乱していないんだ。その体は死体なんだろう?」 「ゾンビ菌は、ミトコンドリアと同じって事だと思うの」
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