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時を同じくして、アメリカ・テキサス州では深刻な事件が起きていた。
野外ロックフェスの会場で、観客の一人が他の観客の手に噛みついたのが始まりだった。熱狂の渦に飲み込まれた会場では、そのような行為を誰も気にもしなかったし、気が付きもしなかった。やがて噛みつかれた者も他の観客の素肌のさらけ出された部分に噛みつき始めた。
噛みついた者も他の観客に噛みつき、噛みつかれた者も他の観客に噛みつきという連鎖が続き、あっという間にその人数は百人を超えた。
その時になってようやく観客たちは異常事態に気付き、会場は騒然となった。
しかし、まだ被害に遭っていない観客たちは、それほどの危機感を感じていなかった。なぜなら、噛みついてくるその者たちの姿は、どう見ても普通の人間なのだ。
それに加えて、目的もはっきりしなかった。噛まれた者は他の者に噛みつきはするものの、別に噛み千切るとか、ましてや人肉をむさぼるというわけでもない。ただ噛みつくだけ。そして一度噛みついたらすぐにその口を離してしまうのだ。
噛みつかれた者の唯一の特徴として、いわゆる黒目の部分が殆ど白に近いシルバーへと変化することが挙げられる。だが、ロックフェスの会場にあって、カラコンを付けている者も多かったため、それさえも特徴と言えるほどの特徴ではなかった。
女性客たちは、逃げ惑うというよりはゆっくりと後退り、腕に自信のありそうな男性客に至っては、むしろその場に立ちはだかった。
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