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なにごとかと、僕もテレビを見やった。一見、何の変哲もない相撲中継だ。
すると彼女は土俵の上の1人の力士を指さす。
そこに写っていたのは、足が3本ある力士の姿だった。
抜群の下半身の安定性を誇る彼は、なんなくその取組に勝利した。
―――――
足が3本あるスポーツ選手が、その後続々と話題になった。
相撲取り以外にも、足が3本あるキックボクサー、マラソン選手、そういった人々が話題になり始めた。
彼らはその身体的特性を活かして、驚くべき試合結果を次々と残していったのだ。
そんな彼らの活躍を見て、ネット上の掲示板は荒れた。
見た目が人外、怪物のよう、異様だといった書き込みには、「多様性を排斥する差別主義者」というレッテルが即座に貼られ、そういった類の人権活動家たちによって世間のネガティブな声は次々に封殺されていった。
―――――
しばらくして、僕と彼女が住むアパートに、例の絵描きがひょっこりと現れた。
彼の風貌は日本を出発した頃とは大きく変わり、立派なスーツ、上等そうな革カバン、金色の腕時計に金縁メガネを身に付けている。
再会を喜ぶ僕の横で、彼女は少し怪訝な顔をした。無理もない、画材を抱えた成金風の見知らぬ男がいきなりこの小さなアパートに現れたのだから。
僕はあわてて絵描きを彼女に紹介する。彼は僕の恩人なのだ、そしてとても素晴らしい人なのだと。
彼を中に招き入れ、僕たちはそれぞれの近況や、彼の旅についての話を交わす。
しばらくして僕は、気になっていた話題を絵描きにぶつけた。
「最近話題になっている、3本足のスポーツ選手……もしかして、あれってあなたの仕業じゃない?」
尋ねる僕に、絵描きはゆっくりと頷いた。満足げな笑みをたたえながら。
「彼らは非常に満足し、私に感謝しているよ。なにせプロスポーツで成功すれば、大きな富が得られるんだからな……おかげで私も巨額の謝礼を得ることができるし、いわゆるウィンウィンというやつかな」
そう言いながら絵描きは、何気なく左手の金の腕時計をゆすった。
「結局皆、私の才能に嫉妬してるのさ。前世の中国でもそうだった」
すると絵描きは、例の「蛇足」の逸話を語った。
彼がその有名な故事の主役だったことは僕も知らなかったし、僕にはますます彼に対する尊敬の念が湧いてきた。
「しかしあなたのおかげで、僕の生活もずいぶん良くなりました。こうして素敵な彼女もできたし、それに……」
僕は傍らの彼女を見やった。
「彼女、今妊娠してるんです」
「そうだったのか、おめでとう。じゃあ私からのお祝いだ」
そう言うと絵描きは、一枚の絵を描いて立ち去っていった。
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