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「くそっくそっ」
3度目にようやく正しい数字を打ち込み、乾く喉を鳴らして繋がるのを待った。すぐに繋がったが、野上にはそれも長く感じた。
焦る気持ちを押さえつけ、オペレーターの質問に答えていく。
「火事ですか?救急ですか?」
「救急です」
「住所はどちらですか?」
「東京都豊島区池袋1丁目*-**です」
「どうしましたか?」
「し、知らない女性が、部屋で、部屋の、床に倒れていて、血が、凄くて」
「呼吸はしていますか?」
「こ、呼吸?いや多分、してない、かと思うんですけど」
「確認はできますか?」
「確認?!え…」
(確認だって!?)
女は完全に顔が見えない状態でうつ伏せになっている。
黒く長い髪で顔が隠れているのだ。
【確認】するにはすなわち、【仰向け】に動かさないといけない。
野上はごくりと唾を吞んで、ぐるぐる渦巻く思考をフル回転させていると、
「女性の状態はうつ伏せですか?仰向けですか?出血はしていますか?他に目立った外傷はありますか?」
オペレーターが続けた。
「うつ伏せです、血、ちまみれです。あの、かなり出血しています。結構長い黒髪で、頭部はよく見えません。包丁が刺さったりもしていません。赤いコートを着ていますが破れたりもありません」
「—わかりました。ではあなたの名前と電話番号を教えてください」
(助かった――!状況を考慮してくれたのだろう)
電話を切り、野上は深く息を下した。
救急隊員や警察が来てくれるーそう思うと、少し安心しぎゅっと目を瞑った。
そしてそっと目を開け、女を見つめながら、ベットを這いずり降り、足に血液がつかないようにつま先立ちで、テレビのリモコンが置いてある場所まで行った。
何か音でもないと耐えられない。
そう思いながら、野上はテレビを点けた。
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