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テレビでは天気予報が流れていた。
7月22日海の日、全国的に晴れ、か。
午前6時47分、の時刻表示を見て、(救急隊あと5分くらいで来てくれるかな)と思ってから、全身に緊張が走った。
あれ………? あの女………コート着てたよな………?
そうだ、今日は7月22日、もう夏なのだ。
野上はまた唾を吞み、見開いた真っ黒い眼球を動かした。
もう一度見ようか、それとも止めようか。
粘着きそうな汗が全身を流れている。
救急隊員が来るまでもう女は見ずに黙って待っていた方が良い。
けれど少し落ち着いた今なら、もう少しじっくり見ることができると思う。
なんで真夏にコートを着ているんだ。
なんで俺の部屋にいるんだ。
おめでとうってダイイングメッセージは一体なんなんだっっっ!
野上は己の湧き出る好奇心に負け、もう一度女の倒れている場所へと足を運んだ。
起き上がっていたりでもしたらどうしよう。
そんな仄暗い恐怖に背筋が凍ったが、【女の死体】はさっきと変わらずの恰好で横たわっていた。
(やっぱりコート着てる…よな…)そう思いながら、まじまじと見つめた。感覚が慣れてきたのだ。コートから視線を上へ移し、今度はダイイングメッセージを書いている左手を見た。(左利きなのか?)青白く...細い指だ。特にネイルはしていない少し伸びた爪。派手な赤いコートの割にネイルにはこだわりがなかったのか。
それから今度は視線を下へ移し、足を見た。恐らくスカートを履いているが、長いコートでスカートは隠れ、そこから足が伸びていた。細い二本の足には黒いストッキングと、靴は黒いパンプス。(怪我とか…なさそうだよな)
その時、199のオペレーターの言葉を思い出した。
『呼吸はしていますか?』『確認できますか?』
確認………。
不謹慎ながらも、“顔を見てみたい気もする”といった感情が芽生えた。
それは好奇心と背徳心が混ざり合う、なんとも奇妙な感情だった。
この女性はどんな顔をしているんだろう。姿からいって美人そうな気がする。
それに顔を見れば、なにか思い出すかもしれない。
その奇妙な感情はレンジの中のカップケーキのように急にむくむくと膨らみ、野上は、ずり…と片足を動かした。
(ま、万が一、い、生きてたら助けられるかもだし、な)
そう思いながら、もう一歩、ずり…と足を前へ出す。
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